講師分散エスキス

乾先生のレクチャーの後には、講師分散エスキスの二回目がありました。前先生、中川先生、羽鳥先生、末光先生の4つのエスキス島が作られ、生徒たちは自由に受けたい先生のエスキスを受けました。


●藤間君

非空調とオフィスがからんだことで、何が起こるか。生産性、創造性のある空間を作りたい。その一つの手法としてデスクトップパソコンを開放し、サーバールームを作る。廃熱利用で足湯だったり、ジャングルだったりが、オフィスの中でもできる。

前先生
ビル内の気候区分作りだすという言い方がいいのではないか?温度が高い低い、湿度が高い低いなどをパラメータにする。湿度調整に植生をつかっていくというのはあるかもしれない。低温領域は空調じゃなきゃ作れないが、高温領域は太陽熱を利用すれば良い。とにかくCFDで何を解くのかを決めなければいけない。これをやろうとする時に何が問題になるかを速く把握しないといけない。社員を何時間滞在させることによって貸し出すような料金体系も考えて、時間帯別の利用料金の違いとかの提案までいければ良いのではないか。室外機に着目してもいいかもしれない。クーリングタワーは湿気を与えるものとして、ヒートポンプは冷熱と温熱を分離するものとして考える。室外機にも温熱環境的、空間的な意味付けを与えることで、新たな空調の在り方を示すことができる。

末光先生
熱源がサーバーのジャングルと言われてもピンとこない。日射とか、そもそも自然にできる温度ムラの話からスタートして、微気候をもっと助長させるような操作を加えるとか、初期条件を受け入れてからストーリーを始めるべきである。そのあとで、熱源や壁厚、素材などを操作していくのが良い。プランニング的にはシャフトから一度離れた方がいいのではないか。平面的なスタディが全然足りていない。


●王さん

砂を飲み込む建築。うろこについては断面のへこみが重要なのでそこの形状をCFDで導き出したい。アメーバ―の形は汚染物のシミュレーションでやっていけば良い。球などの基本的な形状と比較したシミュレーションで導いていく。谷の要素もパラメトリックに形状を決めていく。植物もトクサというものがベスト。敷地周辺を手がかりにプランニングや足の数を規定していく。谷の切り欠きがプランニングを規定していく。空間の形状と美術品の置き方の関係をしっかり考えた。中の空間でも山のように隆起する部分が出てきて、屋根に切り欠かれた谷と呼応する。参照する中国の空間として、桃源郷のシーンを参照した。細い暗いトンネルの向こうに四合院のつながりのあるような風景を描きたい。

前先生
勢いがなくなった。アメーバ―が枯れちゃったような造形に見える。敷地の隅々までいくようなパワーが欲しい。でこぼこがあるという操作は良い。プランニングとしては美術館のプログラムらしくしっかり解いて欲しい。方位に関してどういうロジックがあるかを出して欲しい。建築がどの方向を向いているのか、どちら側に広がりがあるのか重要。太陽がどっちから来るのという話がちゃんとできれば最終的には良い。刻み方で方位性が出せないか?

末光先生
プログラムから設計していくという普段の設計の話と、砂をためるという話はどちらが先行しているのか。ギザギザはどのように形を決めていくのか。大中小と3つの刻みのスケールがあるのであれば、3つのスケールそれぞれのスタディをするべきではないか。谷のスタディはなかなか難しい。プラン、動線がシミュレーションだけだと成立しない可能性が高く、まずプランである程度、谷の向きを決めてから、深さを考えた方がいい。ディテールのスタディは、谷の形状として砂のたまりそうか否かで、鱗の凹凸が違うタイプになるとか適用の仕方を考えてみる。模型の質で大きく評価が左右される案。


石綿さん

めくるということが何の意味があるのかをリサーチした。蓋を閉めている部分が蒸散効果を利用できていない。うまく臭気対策をすればめくれると考え、塔のようなボリュームを建てた。

前先生
やっかいものの臭気をなんとか人間のいないところに散らそうというところが良い。ネガティブなものをちゃんと捉えて取り組んでいるのでリアリティがあって良い。煙突は吸排気が強烈に起きるので高さのスタディをしっかりして欲しい。丁度よいポイントでミニマムな操作をしているというところが欲しい。また、汚染物質を拡散させたらどのように都市に拡散していくのかというシミュレーションをして欲しい。塔をたてるのだったらかなりの美的なセンスが必要。今は塔の話を太陽熱だけで語っているが、風も織り込んで欲しい。

末光先生
めくられた場所でランドスケープ的なデザインをすることができる。ストーリーは良いのではないか。環境のための建築に陥って、人がおいてけぼりを食らうようなことのないようにして欲しい。そのためには起伏を使い倒すアクティビティを設計しないといけない。感じ。ミストとか池とか水をもっと積極的に使っていってもよいのではないか。ミストに使うような水にするには、オゾン処理が必要。参照すべき建築はFOAのAuditorium Park、


●松田君

シロアリの塚は地下空間を良くするための棟である。自分の設計では建築にとりついた塚の様なものを作りたい。ビルのリノベーションとなる。品川河川沿いのビル群のファサードゼオライトによりつくられる素材を張り付けていき、ビルのファサードでビルの風圧を操作する。均質なビル表面に対し植生が芽生え、変化をあたえる。

前先生
ファサードエンジニアリング的に、多孔質なものを作りたいという方向なのか。今の建物は光だけ通すけど熱も風も水も通さないようなところがだめ。なんでもメンテナンスが楽だとかいうのになってしまっている話が良くないのは確か。ファサードからどこまで環境要素が送り込めるかという話ができれば良い。今までのオフィスでは雨が入ってきちゃだめだったが、そこが新たな価値観があるとかの転換があると良い。

羽鳥先生
ビルそれぞれに人格があるかのようにゼオライトの着き方がビルごとに異なるような光景がおもしろい。ゼオライトの厚みにより内部に抜ける風や光を操作していくとよい。レイヤーを自分たちで作っていけるようなものレベルにまでなっていくとよい。

末光先生
まず、ゼオライトの現物をとりよせること。ゼオライトが中途半端にくっついているよりビルまるまるやった方が風景としても面白いのではないか。蟻塚インスピレーションの建築は既存例があるが漏れ無く煙突効果を用いている。今回の案では煙突効果の適用の仕方が重要で、例えば毛細管のようにして、風を弱めて取り入れるとかできたらよい。超多孔質でできている超高層のあり方を語る。素材の表層的なあり方ではなく、建築そのものの組成、塊としてのあり方を考えないといけない。

海綿とか自然界から着想を得れば?最小限の部材で最大限の空間を得られる。多孔質で面白くなるプログラムをつくればいい。自分の立てている仮説からどれだけ飛べるかを目指すのが学生の設計課題の意義ではないか。多少破綻している方がよいのかもしれない。


●林君

ヤオトンのリサーチ。環境として優れているのは、風を防げるというところと、温熱環境が良いというところしかない。いちばんよくないのは湿度が高いということ。地下ならではの崩落の制限で、ヤオトンの空間のサイズが決まっていた。洞穴に住むことは北京原人の時からしていた。顔算式、カチン式(有名)の2つのやオトンがある。世帯が増えていくことで穴を広げていく。集団で住むと八合院、十合院などが見られ、それ以上人が増えたらほかの場所へ移るという形式

前先生
地下空間は湿度との戦い。エスキモーが住んでいるイグル―という建物があって、暖かいという話がある。しかし中入ってみたら臭くて仕方がない。中を温めたいという問題と、換気の問題は常に人を苦しめてきた。どん詰まりの空間はそこが問題。人間は対流だけじゃなくて放射でも熱のやりとりをしているから、空気温度が低くても放射が安定してれば良いという言い方もできるかという話をする。形態係数がパラメータになるかも。合理的な穴の開け方が最小限の資源でいけるという話をしなければいけない。コンクリートで全部作る気だったら面白ない。造形的にはもっと地下と地上でが力強くつながなければいけない。

中川先生
ヤオトンの形成過程(砂を防ぐ)を現在の地下ルールに置き換えるとよいのでは?風の通し方、スポット的に明るくさせ方、などから増殖ルールを設定するのが良い。ルール作りのコツは、合理性で作られるということと、アプローチを最短化させるということ。中国文化は古来より自然界が複雑であるということを認識していた。アングロサクソンは全てを記述しようとしたが、中国人は複雑系を複雑なものとして観察する。それを現代のものに読み替えてパラメトリックスタディで検討していく。ヤオトンの現代風解釈については全部かっちり解く必要はなく恣意的でよい。


●小原君

建築のボリュームの配置を再考したい。矩形のボリュームを傾けることである時間での受熱状況を最適化しそれを複数組み合わせることで、日影の設計の最適化を目指す。ボリュームの集まり方により生まれる多様な日射環境に対し、具体的なアクティビティやプランニングの多様性をパースにより提示した。受熱状況のむらを地図などにより、可視化することも考えている。

羽鳥先生
受熱と光だけで人は行動の位置を選ばないのではないか。塔状のボリュームが使いづらそう。発見された形ではなく、想定の範囲内の形に落ち着いてしまう気がする。地面と木と影くらいのシンプルさがほしい。影が出来ている場所の中でも影と日向の境界が人には人気がある。理屈よりもここで働きたい、行きたいと思わせる空間を創れることが大事。
そもそも、塔を複合させてしまうと個々のボリュームでの検討の良さが集合体にしたときに失われてしまうのではないか?美術館というプログラムであれば光環境を制御することで、その作品のテーマにとって最適な光環境を与えることができる。中国では現在美術が流行っているし、環境の操作に向いた作品をつくるアーティストを探してくるのが良いのではないか。また、形態とプログラムの整合性が見いだせていない。北京にする必然性が欲しい。

末光先生
この形で必然性があるのか。環境だけで物事は決まらず、現実的なところも引き受けた方がこの案に関しては良いのでは?例えば、集住で課題になっている要素を引き受けるべきとかそういう話があると良い。造形的には斜めではなく、ただ箱をずらすだけでも同じことができるのではないか?住みたいと思わせるようなものでないといけない。環境的なストーリーはこのままで、造形に関してはもっと可能性を探った方がいい。


●北潟君

工場の分散化はやめ、分棟にして配置する。大動物棟と小動物棟(牛や豚を解体する棟)を残せば他は配置を変えても大丈夫であると考えた。それらの棟を残しつつ敷地に(南北軸におけるプログラムの変化による)周辺の建物高さに呼応した、ボリュームを配置していく。

羽鳥先生
現状として、南北方向の軸における人の移動が起こりづらいとおもう。品川のオフィスがダブルスキンにしたところで、外気の空気質や騒音問題があるとそもそも破綻する。外気を浄化する空間として機能させることに本質的に気がついているはず。周辺の非空調のポテンシャルを上げてやることの方が社会的な提案となりうる。臭気を平面的、高さ的に人にとって影響の少ない場所に逃がすことをして欲しい。
建築を作るロジックのステップとしては、第一段階壁をとる→第二段階臭気をとる→第三段階公共性をもたせる。この第二段階をもっとポジティブにした方がいい。隠された真実から臭いだけ染み出るから嫌われる。その臭いには人間の生活に欠かせない真実が隠れているのだから、もっとそれを主張するくらいでもよい。中国や南米などの道沿いの精肉店は内部につるしてある生肉の印象などと相まって、単純に臭いというマイナスイメージ以上の良さがある。生活の一部として感じさせるべき。


●田中さん

堤防に吹く風が堤防沿いにしか流れないことを示した。堤防上に屋根のようなものをもつ建築を創り、風を堤防の上を超すように計画した。また植物でもそれが出来ないかと考えた。

羽鳥先生
プログラムとか用途を見いだせないと需要がない建築になってしまう。スタディする範囲を制限した方がいい。ビジョンとして何の提案をしたいかを考えた方がいい。広域に対する定量的な改善提案を考える。風を必要としている方向に流せるようにスタディする。堤防に穴を開けて風を住宅街の方まで流してもいい。そこに環境的、エネルギー的な裏付けがあればよい。

●児玉君

無電化冷蔵庫の原理を建築に適用する。既存ボリュームをスラブで貫いてつなげるときのつなぎ方を具体的に考えた。内部の使われ方も一部平面図描き表し、具体的に示した。

羽鳥先生
今は配置から適当にスラブをつないでいるが、既存のプランの使われ方を表す平面図を描き、新旧の対比を分かりやすく見せると良い。どこが特に暑いのかとか現状把握が大事。水を建築に通すことが防災上やネオンなどの照明を利用する際にも生きてくる話などがあると良い。もともとの状態が劣悪になっていることを表すサーモなど、現状を変えなければいかない裏付けが欲しい。

末光先生
放射冷房の機構に依存しすぎて、提案が何かみえてこない。無電化冷蔵庫万歳みたいな案にしかならないのではないか。既存のリノベーションということに拘るのはなぜか。新築の方がいいのではないか。空間としての提案がほしい。冷えることで大きなメリットがあるプログラムはないのか。

中川先生
この案はなるべくささやかな操作にした方がいいのでは。また、曲線を作るときは明快なルールを設定すべき。周りの躯体にあまり影響を与えないようなルール。


●清野君

敷地として選定した場所は、品川駅から河川に抜ける道の先にあり、河に抜ける視線を妨げているビルが建つ場所。駅から河まで、視線が貫くように建築を二分する。複数のスキンにより構成されるファサードを、貫いている道の両脇に設ける。プランによりスキンの幅を変える。

羽鳥先生
スキンがもっと建築に勝っていてもいいのではないか。河が見えているだけでは人は集まらない。人がそこで何かしらのアクティビティを起こしているのが見えることが大事。スキンの設け方により境界があいまいになり、いい空間が生まれることをなんとなくのイメージではなく、模型で早くスタディする。
レイヤーによるプランニングの変化を考えるとき機能で与えていくのではなく、一度かっこいいというインスピレーションだけで考えた方がいいのでは。論理を一度離れた方がいい。レイヤーを構成するパネルの重なり方において視覚的な見え方に関するスタディも必要。

末光先生
5mのスキンのゾーンは何に使うのか。動線だとしてもコアとの関係はどのようになるのか。プログラム論をするとスキンを語るうえで、話がそれているのではないか。スキン論とすると、スキンの性質を書き出して、どのようにそれぞれの機能を担保させるか考えていくと手が動くのではないか。防水、断熱など。参照すべき建築としては、アルミの家(伊東事務所)やHouse N(藤本壮介)で1つの素材でギャップをつくるのが面白い。開口率としては全体では一般的な家と同じにように設定する。


●米澤君

環境的なものから考えると、半径120〜240mがベストだと考えている。北京が敷地にある。原発問題のためのシェルターだと考えている。空調はいらないシステムを目指している。表面の不透明な部分は太陽光パネルをはる?直径500mで100人自活できる★ができる。ノアの方舟。ただし、肉が難しい。日射のあたるところは水耕栽培。外周部にマグロを放つなどはどうか。

羽鳥先生
100人しか住まないのはダメ。地域社会圏主義では、100m×100m×40m?で1500人の規模を考えるのが良いのではないか。1万人くらい住めないといけないのではないか。バブル期のゼネコンの超高層の提案がいっぱいなされたときのものを参照するとよい。設備的なものをもっと考えないといけない。住居をどのようにつくるか、働く場所、寝る場所。外皮部分は植物と人間が共存する形式になるのではないか。

中川先生
永久に循環する水システムがあるのがよい。対流を起こすためには、下部の水に日射を当て暖める。その際、外部に反射板を設置するのか。住めない場所があってもいいという割り切りがあっても面白い。メロンの網の目状のダブルスキンにして空気を上に流す。20万個中国に置かれるような絵を描いた方が良い。直線状に置けば万里の長城のようになる。
500mの球という、ナンセンスなことを徹底的にやっていきなさい。ナンセンスではないことをしていると原発が出来上がる。万里の長城の後ろにうっすらと映る500m球。あ、何この世界??みたいな。


●吉富君

1戸ごとの家が庇をだす。塔によって、断面的な街路との開き方の類型、プログラムによって異なるカタチ、パタンランゲージを目指す。

末光先生
プログラムだけだと差異を拾いきれず、パタンランゲージにならないのではないか。プログラムのみがカタチに影響されるものではない。庇の重ね合わせによって濃淡はつけられそう。光と熱の扱いでお話はできる。松原商店街。横浜のアメ横。よくみるといろんな庇がある。環境的な要素で、何種類もパタンランゲージとして導き出せるのかは分からない。単純な環境的要素ではなく、購買意欲をいかにあげるかとか、商店街本来の要求される要素を拾い上げないといけない。環境という輪郭がぼやけたものを、他の要素を参画させることで、具体的なものにしないといけない。

中川先生
町を活性化させようとしたときに、木を植えるだけで人が集まる。表参道も大きな木が生えてあるから人が集まる。吉冨くんの案は、?既存が開放系になっていく?裏の隙間で操作?屋根の操作。これらの操作が複合的に行われていくことによって、非空調を成立させていくプロセスをたどる。これは非常に緻密な案ですよ。薄味でしっかりと味を持っているような作品。


●富山君

四合院の形式を現代に読み替える。隙間には構造、動線、設備を満たす空間を入れていく。

中川先生
画一的な2m幅のラーメンが四合院らしくない。ラーメン柱の幅がもっと多様な方がよい。四合院とは4世帯が集まって始めて四合院となる。だから、複数のまとまりを単位としたルールで設計を進めるべき。そのまとまりを隣接させる際に最適な関係性をもたせて増殖させていく。ラーメンのような見えるフレームではなく、環境という見えないフレームで形を作っていくように。環境的なルールがこの見えないグリッドを形成している。それが無意識の操作をしていて、それがフラットな社会を目指す。すなわち、フラットな行動を促すような社会をめざす。そのグリッドにボリュームをはめたものが完成形となる。フラットな場所に行ってみて、何がフラットにしているのかルールをみつける。


●西倉君

棒状のルーバーの間隙とスティック幅を変えた時にどのように風の流れが変わるかスタディを考えている。構造を考えて作っていく予定。鉄、RC、木でグリッド状に躯体構造を組み合わせていく。それぞれ放発伝熱、蓄熱、断熱として機能させる。構造はグリッド、設備は斜材。

中川先生
ランダムに配置すると面白いものが出てこない。全体で解かないとだめ。ある形を作って、それを微調整していくことが必要。素材もパラメータとしている。ボリュームの解像度を上げて(細かく)みていく。作りたいざっくりしたイメージがあってそれに仮の温度ムラを与える。そのムラをどんどん細かくしていくと、作りたいイメージに近づいていくのでは。空間の生成原理と温熱環境の生成原理が一致している必要がある。葉っぱがあって、葉脈だけが残るようなストーリーにしていけばいいのではないか。

全体的に、案のディベロップのスピードが遅くなってきたような印象を受けました。ただ、皆の案の最終形がだんだん見えてきた気もします。
川島は同じ日に石川スタジオのエスキスにも参加したのですが、彼らの方が断然進んだアウトプットを出していました。前スタジオも最終堤出に向けてエンジンをかけていきましょう!

乾久美子先生レクチャー

6月7日は、乾久美子建築設計事務所乾久美子先生にレクチャーをしていただきました。


以下概要になります。



* * *



延岡駅プロジェクトについて


事務所設立から今までの12年間は、建築を考えるにあたって周辺環境をどう読み取り、どうリアクションするかについて考えてきた。しかし、単なるリアクションでは足りないと考えるようになった。
延岡駅のプロジェクトでは、アクションを与えるようなものを考えた。街を再生させるという、切実な願いを叶えるということ。

延岡駅周辺は、南北の工場に挟まれた市街地は工業を中心に栄えてきたが、脱工業化の流れを受けて幹線道路沿いにショッピングセンターが建てられた。駅周辺の中心市街地は衰退状況で、機能は揃っているが活気がない状態である。

駅そのものを再整備するにはどうすれば良いか。その再整備を通して街全体を再生することが大事である。
駅に商業を付帯させても、大規模ショッピングセンター・インターネットショッピングには勝てない。市民活動を付帯させるべきなのである。公共空間の担い手としてのコミュニティの変遷を見てみると、かつて地域コミュニティ公共的なサービスが都市化になるにあたり弱体化する中、NPOや大学などがつくるテーマコミュニティという新たなものが生まれた。それらに駅周辺を活性化するお手伝いをお願いする。(Studio-L 山崎亮様と協同)

公共交通利用者ゾーンと市民活動ゾーンを並列に並べただけでは人の動線は交わらず駅全体を活性化できないそれらの機能をできる限り分散化して、混ぜることを考えた。両者が触れ合う機会を増やすことで、お互いを知りアピールしあうメリットがある。

地方都市の駅開発でよく有り得る問題は駅に何もかも詰め込みすぎることである。今回は敢えて不足気味に用意することで、周りの空き店舗などの仕様を促す流れをつくろうとしている。駅の再整備は都市再生の「きっかけ」でしかなく、外にどんどん出すことが大事なのである。

市民活動を「可視化」すること。
足りていないのは「機能」でなく、「人のいる風景」である。

そこで、すべての活動を地上階で行うようにする。

1960年代のシンプルなRC造のJR駅舎はパッとしないが、市民からは親しみやすいといわれている。そこで、 JR駅舎を残したままの再整備を試み、大屋根を駅舎から連続するように溶け込ませることを考えた。駅を拡張するように柱が林立し、その中に機能が入っていく。

延岡市の市民活動のシステムとして、ハード面に関しては「駅まち会議」という乾様監修のものがあり、ソフト面に関しては「駅まち市民ワークショップ」というものを山崎亮様がされている。
そこで明らかになったのは、求められているのは単なるがらんどうの空間でなく、においや音が出ることも許容する、必要な機能を持った空間である。透明なガラスで区切ることで、視覚的な連続性を持ちながらそれを実現していく。

ガラスの問題は環境のコントロールが難しいことである。空調化してパッケージ化したものは作りたくない。
そこで、中川純様にお願いし、環境調査をスタートした。冬の偏西風がきついという住民の声があったことから、まずは地形全体を読み込み、気候の特徴を調べた。シミュレーションをしてみると、冬には駅舎に向けて冷たい風が駅に吹き付けることがわかった。それを、常緑樹によってある程度防ぐことができるようにした。また、ガラスで部屋を囲うのでなく、パタパタとガラスの壁を置いていくようにすることで、内部空間でも外部空間でもないような、多様な空間を作ろうとした。


延岡市の市民には、植栽に対する理解があまりない人が多い。周囲に当たり前にあるもので、良いイメージがないからである。
そのため、美観とは違った次元で証明しなければいけない。そこで用いたのがCFDであり、植物をモデリングしてある程度シミュレーションを行い、風の機能的に必要と言うようにした。

駅から市役所まで緑のネットワークも考え、その並木道の効用についてもシミュレーションでリサーチを行った。シミュレーションは地味なレベルかもしれないが、エビデンスづくりは切実に必要であると考えている。

東京大学都市工学科の羽藤英二先生がおっしゃっていたが、公共施設に必要なのは「理論的公共性」ということにすごく共感した。いかに納得できるものになるかが大事と考えている。

延岡駅のようなシンプルな設計は事務所が始まって以来である。
アクションとしての建築といっても、派手なものをつくって劇的に周辺環境を変えたいのではない。
なにかを少し足すことで街を変えること。それは、ささやかであるほど良いと実感している
確実な意味、確実な理由があればいいのである。



○藝大における課題について


芸大2年の住宅課題「自然と生活、そしてリズム」。敷地は根津神社内。エネルギーを使わない住宅を考える課題である。藝大という環境だからこそ、固めの課題を出してみた。

エネルギーとは何か。そもそも、我々はどういう存在なのか。そこでは、寄生について考えることになるだろう。石油などへの寄生でなく、有機的な関係を持てる「良い寄生」について。
どれだけ寄生するかのバランスを考えた人もいた。また、不必要なエネルギーのコントロールなど。
以下は数人の案の紹介。


・北条さんの案
風に寄生することを考えた案。いつも風が流れている場所を見つけ、煙突そのもののような屋根をつくった。
プロトタイプを立ち上げて実証していくことは大事で、プロトタイプの例として良い。周辺環境と融合し、人間のイマジネーションも加わっていることが良かった。


・永野さんの案
大木に寄生することを考えた案。木に寄生するというのは面白い最後の造形が詰め切れなかったが、アイデアが良い。


・都築さんの案
池に寄生することを考えた案。池に突っ込んだ土壁から生えるコケで壁面を常にウエットにする。池に建築を突っ込むという大胆な発想はやや暴力的だが、プリミティブなところからの発想は的を得ている。


・駒崎さんの案
庇からのれんを垂らす。あまりに長いのれんは間仕切りとしても利用できる。これが半外部空間の設計にもちゃんと絡んでいる。
また、人のアクティビティを要しているところが良い。サステナビリティは、このように文化的なものを感じさせるものであってほしい。



○質疑応答


・羽鳥様
延岡駅プロジェクトにおいて、いかにささやかな提案で影響力のあるものを作るか、というふうにおっしゃっていたが、結びつきや関係性が強くなるほど、象徴性は減るのではないか。表現みたいなものがある種邪魔になってくるのではないか。それに対してどう考えられるか。

乾先生:今のところはまだ第1作目である。誰でも作れるようなものを作っているというのはむしろすごく新鮮である。しかし、このモチベーションが続くかはまだわからない。
しかし、今はシンボル性は全く求められておらず、理論的公共性が求められているのは確かである。


・前先生
延岡駅プロジェクトにおいて、なぜポジティブな理由でなく、ネガティブな理由からアプローチされたのか。また、ネガティブを薄めると同時にポジティブに広げていく可能性についてどう考えられるか?

乾先生:市民の方から、風に対する不満が多くあったため、まずはネガティブをつぶすことが大事と考えた。また、今後は中間期や夏期の風のポジティブな利用も考えていきたい

都会の人間は自然に対して甘いように感じる。

乾先生:確かに、都会の人にはロマンティシズムがあるかも。

その違いは感じられるか?

乾先生:意外と、地方の人の方がエアコンをつけたりする。その差をなんとか埋めなければいけないが、その意味で中川純さんの助けが生きている。


・TA 中島くん
空間の質がたくさんあるが、プログラムはどれくらい想定されているか?初期値として、現在の市民活動しかないのか?

乾先生:基本的に求められているものは10年20年でそんなに変わらないと考えている。
キッチン、水回りがほしいなどを当てはめていく程度で、そんなに特殊なことはしていない。


・受講生 吉富くん
のれんを垂らす作品で、アクティビティを促す可能性とおっしゃっていたが、アクティビティはどういうレベル(建具レベル・建築レベルなど)でならできるのか。

乾先生:人を動かすネタはなんだって良い。しかし、ささやかでなければいけない。例えば建築レベルのもので、文化をつくるためのものだと言われても荷が重すぎる。


・受講生 西倉くん
風を考えたとき、直方体の形を変えるということは考えられなかったのか。

乾先生:実際のプロジェクトでデザインを考えるとなると、色々なパラメータがある。
その中で、風からスタートする形は考えられるが、今回は自然環境から形を考えるということを前に打ち出せる状況ではなかった。風は事後的に確認する程度。まずは何より、都市再生を促す機能性が第一であった。


・末光様
自然環境から形を考えることの可能性についてどのように考えられているか?今の段階では、シミュレーションは事後的な確認のみである。乾さんがご自身でいじれれば、変わるのだろうか。

乾先生:エネルギーから建築の形態を考えることに、個人にはリアリティは感じない。日影・風を考えるだけだと建築的な豊かさが圧倒的に足りず、単純で貧しい建築になる。
しかし、情報の束としての建築のなかに、環境的な要素が足りていないのは確かである。
どういうものかはわからないが、気軽に扱えるツールがあれば良い。


・TA 川島さん
藝大の北条さんは歴史的なことまで取り込み、環境をone of themと捉えられていた。しかし、全体的には環境は嫌われているように思うが、なぜなのか。

乾先生:ツールの扱いにくさ。意匠設計者の能力を超えたところにある感じなので、誰でも扱えるものになれば建築の幅が広がっていくと思っている。



* * *



前スタジオ内のレクチャーということで、環境をどう織り交ぜていったかという視点をふまえながら、お話ししてくださいました。
エビデンス作りとしての環境は、建築が周囲にアクションを起こすようなものにしたいという乾先生の軸をさらに強固にしていたように思います。

実務においては、建築を作るにあたって色々な要素がある中で、自然環境から形を考えるということはほとんどないかもしれません。
しかし、乾先生がおっしゃっていたように、建築を形づくる情報の束の中に環境があることは確かで、その可能性を前スタジオで探るということには大きな意味があるのだと再確認できたように思います。



乾先生、お忙しい中大変ありがとうございました。