全体最終講評

7月10日、選出者の最終講評が行われました。
前スタジオにおいて発表したのは西倉くん・林くん・王さん・北潟くん・米澤くん・藤間くんの6人です。

 

以下、概要になります。


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○西倉美祝/「Maximum Mountain of Minimum Lives」

建築を粒子の集合と捉え、質量のデザインをする。空間の粗密を内部に展開させることで、新しいアイコン建築を考える具体的には構造の容積を普通のものの6倍にすることで粗な場所を作り、それにより風・熱・光の微細なデザインが可能になる。

 

隈先生:かっこよくて、構造建築に対する新しい提案になると思う。内部はどうなっているのか?
→ガラスの箱の部分と半屋外空間がある
隈先生:固定した内部空間があるよりも、可動の間仕切りによって内部と半屋外が季節によって変えられると良いのではないか。
→外部空間・内部空間の取り方は考えていて、あえて固定しているというのもあるが、そうかもしれない。

 

伊東先生:そもそも、どういう課題なのか?
→2000m2以上の非空調領域を設計するというもの。シミュレーションを行いながら設計する。
伊東先生:シミュレーションは自分でやるのか?
→はい。
伊東先生:設計に空気の流れや温度の違いを取り入れることはこれから重要で面白い。西倉君の案は均質なものを作っていると思うのだが…。
→そのようなことはなくて、環境の微妙な差は実現していると考えている。
伊東先生:内部に完結するものでなく、周りとの関係でできてくるものなのではないか。
→北京という敷地では周囲を細かく読み取るというイメージはしにくかった
伊東先生:絵はすごくきれいだが、北京の空気はすごく汚い。そういうところでこのプロジェクトではどう実現するのかと気になる。

石川先生:北京にも一緒に行ったし、どうしても聞きたい。内部空間は模型からはわからないがどうなっているのか。また、人の密度や緑の密度なども読み取り反映されていると良かった。



○林樹樹/「Crossover Yao Dong」

地下空間の無機質な開発へのアンチテーゼとして、光・熱・風のフェーズを経て地下空間を構築していく。ヤオトンから抽出した要素はグリッド・動線の確保・拡張性。シミュレーションを行いながら設計し、ヤオトンの形式の三次元的な再現を考えた。

 

隈先生:ヤオトンという発想は良いと思ったが、土の質感をもっと地上にも出しても良かったのではないか。
→中国における大開発に対し、あえて地上には何も作らないことを考えた。

伊東先生:これはこれできれいだと思うが、シミュレーションする前からイメージが決まっている。それはどうなのか?
→西倉:今はシミュレーションでできるレベルがあまりに低い。
伊東先生:イメージはないと事が始まらないが、そのイメージはシミュレーションによって変わると思う。「ファシティック」という言葉がキーワード。

 

川添先生:地下空間を巨大な蓄熱体とすると、輻射の方が大事なのでは。通風よりそれも大事。

佐藤先生:構造と同じように、部分の詳細から全体なラフなモデルの拡張はできるはず。できないと断言するのは良くない



○王卉/「川百納海谷若懐虚」

北京において、砂を飲み込む建築を考える。3つのスケールで環境と歴史を結び付けていくことを考える。敷地の歴史・文脈に融合した環境建築である。

 

隈先生:四合院に挿入するというのは大胆で面白いと思うのだが、四合院は中庭空間が面白いのではないか。それを生かしながらのデザインはできたはず。建築が、形が目的なように見えてしまう。

伊藤先生:四合院が人は住んでいないのか?
→住んでいない。

伊東先生:模型は面白い。環境との関係の上で成り立っているのがわかる。構成が問題だったのではないか。

佐藤先生:構造は面白いが、模型をもっと工夫できたら良かった。固いシェルをもっとよく表現できるのでは。

 

石川先生:模型は良い。しかし外部空間の位置づけがよくわからなかった。四合院と広場の関係は?そこから形は設計されていくのではないか。
→広場が文脈としてつながっているわけではない。
石川先生:そのような歴史をふまえた提案だと説得力があった。

伊藤:3つ(西倉・林・王)ともグリッドが使われているのが面白い。



○北潟寛史/「芝浦屠殺場及東京食肉工場リノベーション」

品川における近代化による居住空間と外部の断絶を解消する。食肉工場に、汚染物質を吸着するブロックを粗密をつけて配置していく。丘の上部には臭いをマスキングするBBQ場・お花畑などを展開する。

隈先生:ブロックは周りに対して貢献しているのか。
→最初のモチベーションは内部をいかに良くするかだったが、周囲の環境の非空調ポテンシャルを生かすこともできると考えている。
隈先生:中だけのためにしてはやりすぎだと思う。周囲のプログラムをもっと引き込んでくると面白かった。
→周囲との関係性は考えている。一般の人の生活動線の一部になるとか。
隈先生:商店街を引きこむなど、もっとアクセッシブルでないと。

千葉先生:結局全部屋根で覆ってしまうのか。結果的に半屋外空間ができるとかがあるとすごく面白かった。

 

石川先生:土壌浄化とあるが、土はどこにあるのか?
→土壌でなく、加工したブロック
石川先生:構造体なのであれば今のようにならないのでは。どれが屋根で、どれが肥料をつくるものなのか。

伊藤先生:すごく面白いテーマ。迷惑施設をどうするべきか。屠場というものから、臭いの要素に固執したのはなぜか?
→最初に注目したのは周りの壁。
伊藤先生:臭いだけでなく、「見えない」ということも大事だったはずである。

伊東先生:なぜBBQなのか?
→ファブリーズのように良い匂いで悪い臭いを包むようなことを考えた。

石川先生:模型がすごくきれいだった。流体的なデザインをもっと説明できたら良かった。



○米澤星矢/「Liv in' Sphere

球体のシェルターを考える。福島でのようなことが北京で起きたことを想定する。人はこの中で太陽の動きにそって生活をしていく。これは、将来の災害を想定しているが、人間に必要なエネルギーの大きさの可視化でもある。

 

隈先生:都市に対する視点が欠けているのではないか。

伊東先生:四角いビルでも良かったのでは。
→空気の循環を考えると、球体の方が有利
伊東先生:右の図を見るとなかに四角い箱があるのではこういうのは面白いと思うが、やるんだったら徹底的にやってほしい。
→250人を想定している。
伊東先生:それは少ない。

 

川添先生:構造模型があるが、これでは何年かかるかわからない。もっと小さいモジュールから組み立てていくのでは。構造の考え方がこの案の構想からぶれていて、面白さを減らしているのではないか。

伊藤先生:住んでいる人のイメージは?社会集団のような感じか。
→すべての人がうまく役割分担して住む
伊藤先生:環境を考えることは社会主義のように感じる。

千葉先生:普通のビルの代替案のように、想像できる範囲内でデザインしているが、もっと土木的にインフラのようにつくることもできた。スケールがこれで良いのかということが気になる。



○藤間久秀/「Nomad Adapting Office」

創造性を生み出すオフィス空間を考える。PCによる熱を地下空間に集約し、それによりスーパーフリーアドレス空間を実現する。暖かい配管・冷たい空間があり、それらが内部空間にランダムに分散することで空間の環境に変化をつける。

 

隈先生:西倉君のに近いが、グラデーショナルに内部から外部に展開していくことが大事なのではないか。もっとシャフトもランダムに配置すれば良かった。
→生産性を保つ安定した空間も必要と思った。

伊東先生:模型のイメージは良い

小渕先生:課題についてになるが、とにかくいろんなことをやりすぎている。文化的なのか、環境的なのか。環境がおまけになっているのもある中で、この案は環境にしっかり向き合っていて良かった。

 

西出先生:こういうオフィスが成立する条件は何なのか。このオフィスで仕事をする必然性が感じられない。
Googleのオフィスなどのように好きな場所を探して仕事をする。
西出先生:すごく集められているという感じに違和感を覚える。

石川先生:ランドスケープだからすごく気になるが、このように内部に木は生えない。生きているものを建築の装置と同じように無暗に書かないでほしい、緑がアクセサリー的に書かれている。


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全体最終講評においては、貴重なご講評を沢山頂きました。
前スタジオの「環境を考える」というテーマでありながらそこから新しい発見はあまりなかった点、建築としてしっかり詰め切れていなかった点、前スタジオ全体にも通ずる今後の課題が見えたものでもありました。
発表した皆さんはお疲れ様でした。


今まで3ヶ月もの間ご指導してくださいました前先生・講師の方々、本当にありがとうございました。
受講生の皆さんも、本当にお疲れ様でした。