前スタジオ2012始動!

今年もスタジオ課題が始まります!
Design the “Un-Conditioned” Space という課題です。


■趣旨
かつて人類はひ弱な己を守り生かすという切実な願いから建築を創り、過酷な自然に時に逆らい時に受け入れる知恵をもって、建築を単なるシェルターを超えた存在に高めていった。それが20世紀初頭に空気調和が発明され温度・湿度が自由に制御できるようになったことで、世界中の建築は画一的に空調した空間で、急速に埋め尽くされることとなった。太陽や風、そうした自然からの離脱は、膨大なエネルギーの消費を代償としてもたらした。外壁一杯にガラスが張り巡らし、冬の凍える空気と夏の厳しい日差しに直撃される空間を巨大な空調機で制御することを「粋」とする、エネルギー・ジャンキーに建築は堕したのである。
しかし3.11以降の省エネ・創エネの大合唱の中、日本の建築は太陽光発電パネルを載せる架台という地位に転落しようとしている。一方で経済発展著しい中国は、強烈な空調を必要とする巨大建築や人が住むことのない投機建物に膨大なエネルギーを投下し続けている。世界で自然・建築・人間の関係が悲劇的になる中で、建築に関わる我々にできることは何だろうか?

本スタジオでは「エネルギーを消費しない建築」のこれからのあり方を考えるべく、設備によって制御されない公共的な空間、”Un-Conditioned Space”を持つ建築を設計の対象とする。敷地の周辺環境を読み解き自然エネルギーを生かす、快適性が担保された”Un-Conditioned Space”を、建築の中にいかに組み込んで行くかが計画の焦点となる。
駅舎や商店街のアーケードなど人々が行き交うオープンスペースの多くは、空調されていないように見えても、実は強烈に空調されている。そこに商業空間やオフィス空間など、空調なしでは有り得ないとされてきた空間を”Un-Conditioned Space”として成立させるヒントがあるかもしれない。空気調和技術が発展していなかった時代の建築のリサーチも有用であろう。

この課題は自然・建築・人間のこれからの未来を追求する試みである。空調範囲や消費エネルギーを少なくするという大きな制約の中でも、設計ツールとしてシミュレーションを用い、風や熱の可視化を行いながらスタディすることで、これまでとは違う新しい建築の形を作ることができるだろう。また、設計・リサーチの対象として、全世界の縮図とも言うべき日中双方の対照的な状況を見据えることで、今後世界のどのような地域でも展開可能なアイディアが生まれることを期待する。その中で造形的なものに限らず、建築が持ちうる社会的役割の可能性をも押し広げる作品が生まれると確信している。

■課題
1:熱・光・風などのシミュレーションを重ね、公共的なプログラムを持った”Un-Conditioned Space”を設計する。建物全体の規模は2000m2以上とする。
2:敷地は北京(東城区:XL)、東京(品川区:L、世田谷区:M、足立区:S)の指定されたエリアの中から自由に選定し設計を行う。
3:温湿度・風・光環境測定器を用い、身近にある”Un-Conditioned Space”のリサーチを行い、特徴を把握するとともに、自身の温熱感覚を数値として把握する。
4:環境シミュレーションソフトFlowDesignerを主に用い、建築形態が持つ環境性能を把握するスタディを行いながら、シミュレーション技術を習得する。
5:5月中旬に敷地見学・MAD Architectsの見学を兼ねた3泊4日での北京研修旅行を予定。

MAE Studio TA:takase