講師分散エスキス

中間後初めて、講師の方々が本格的なエスキスをしてくださいました。
羽鳥様、中川様、前先生と、都市工の石川研の高取さんがきてくださいました。

まず、エスキスの前に高瀬さんの作ってくださった手作り風洞実験器のお披露目がありました!
受講生は積極的に利用しましょう!



さて、各受講生のエスキスの詳細です。

藤間
データセンターのサーバーの排熱を利用して、ノマドワーカーのためのオフィスを考える。


講師陣のエスキス
データセンターの話と、ノマドワーカーの話とで話が分かれている。
データセンターは一極集中、ノマドは極端な分散という、空間としてはまったく異なるもの。
この対比をどのように設計に生かすのか。

データサーバーというプログラムに目をつけたのは面白い。
既存のデータセンター、オフィスについてリサーチはしたのか。
問題意識を持つ対象に対する解像度が低く、提案の域に達していない。排熱の空調負荷を減らすことが目的化している。
もっと新しい働き方を提示できなければ意味がない。ノマドという言葉を単なる客寄せパンダ的にしか使えていない。
敷地についてのリサーチはしたのか。敷地においてスタディした方が考えるべきことが見えてくるのではないか。
チューブ、配管の配置にロジックはあるのか。夏と冬で要求される性能は変わってくるはずで、また、方位によっても変わってくるはず。



兒玉
無電化冷蔵庫の原理を利用して、夜間放射によって冷却し、ヒートアイランドを緩和する。

講師陣のエスキス
実現するためのオーダー計算が必要。
丸である意味は?スケール感が現状では欠如している。
1つは詳細図面がかけるとよい。

そもそも、ヒートアイランドを解決するという話より、その建築を使う人がどのような豊かさを享受できるか語れないと共感できない。
放射のためだけに平面の形が丸になるのはいかがなものか。そこで中で働く人にとってメリットは何か。
断面的な熱循環をもっと緻密に考えるべきなのではないか。

放射冷却は夜やるのだから、夜の街に対してどのような効果を生み出せるのかを考えた方が良い。
屋根面にはパネルを付加するとして、内部のデザインになると思う。設計箇所により空気が冷やされるということは、夏でも風に当たることが出来るため、窓を開けるひとが増える。
そこに人の新しいつながりが生まれる。まずは、北千住の夜を愛する!


富山
北京において、貧富の差を考え、階級を問わずに入れる建築を目指す。
四合院の構成原理、環境的安定性に着目。3次元的にその構成原理を展開する。

講師陣のエスキス
階級を超えたコミュニティとはありうるのか。
スケール感をもって、スタディすべき。
インフラとのかかわりはどのようになっているのか。

貧富の差を埋めるという話より、別の価値観の指標を示すべきではないのか。
高級マンションに対して、四合院でしか得られない価値を分析から導き出すべき。
コミュニティの原則は排除であり、マンションと四合院のようなものとが対になって提案されるとかはありうる。

壁面が連続面よりも、庇の集合の方がいいのではないか。空調を創らなくても次世代的な快適性は作れるというマニフェスト、そのヒントは四合院にあったことを強調する。
その原理を3次元的に生かした新しい形態をつくる。



北潟
品川において、周辺の関係性を分断していて、臭気が問題になっており、高い塀のある食肉工場の一部を分解し、周辺に散在させ、人間のため、家畜のための緑地を併せてつくり、関係性を回復させる。緑地で散歩する牛の肉はうまくなる。

講師陣のエスキス
臭気をシミュレーションするのは今までにないので面白い。

主にTwitterより
「都市の断絶」など対象が生み出している問題抽出に客観性が低く、食肉工場を分散配置するという手法も、ドラスティックなわりに臭気など物理的な問題を解決できているのか、そもそも食肉工場として機能するのか不明瞭で、全体として良くなっているのかどうなの良くかわからない。
臭気や騒音、家畜が見えることなどを強引に解決している壁がどのように問題なのか共有されない限り、この提案の価値がまず見えてこない。これは情報収集、編集、プレゼンの問題でもある。
それが社会的に認知されている問題から個人的に感知した問題まで幅広く掬い上げられていれば尚良い。
品川は下水処理場もあり臭気問題が深刻な街でもある。臭気の濃度により自然通風などできないビルもある。問題解決型提案は自分が着目した問題の掘り下げを短期間に徹底して行うべき。
同時に解決手法の仮説を複数立て、さらにリサーチしさらに仮説を改良するという手順が要る。
一方で問題解決屋さんでは建築をデザインしているというには不十分で、例えば臭気を都市構造と気流の関係を少々コントロールすることで、影響の少ないルートで排気拡散させ、周辺建物に非空調可能な状況をつくり、その延長線上の都市空間、ライフスタイルを描くなら意味があると思う。

エスキスの段階で、問題意識を共有させるためのヴィジュアルが決定的に不足していた。工場にとってのメリットが言えないと、(せいぜい工場として成立することをプレゼンできないと)そのあとの都市に対する影響を語っても共感されにくいだろう。

港区で高層ビルが作る風環境のシミュレーションをしていて、湾岸にある100mスケールのビルが後ろに1kmぐらいの弱風域を作る。また、100mと50mぐらいの高さ間で上下方向に渦ができることが最近わかってきている。これをロール構造と呼ぶんだけど、特異な上昇気流、下降気流が発生するため、地上のレベルの熱と上空レベルの特異な熱のやりとりが発生する。普通はこの循環は50m以上の高さでしか起こらないが、7,8層の高さのビルに囲まれた25m角ぐらいのスケールの開けた広場があれば、そこまで上空の冷気は下りてくる。

汚染物質のシミュレーション。汚染源を分散配置し、その影響が被ることがない範囲にボリューム配置をする。




北京において、ヤオトンの考察から地下鉄の駅を考える。地下空間を主に考え、自動車や地下鉄など、交通の結節点としてのありかたも考える。

講師陣のエスキス
ヤオトンはセキュリティの問題もあり、環境的な要素だけでは解けない。
普通の駅で体験できるような普通のボキャブラリーを使ってはダメ。
ラディカルな駅のあり方を考えてほしい。

発想の原点となっているヤオトンの解析が重要。これでいいとおもった瞬間の形態がその地域で広がる(「建築家なしの建築」ルドルフスキー)。
ヤオトンがなぜその形態で波及しえたのかをもっと分析する。
なぜインコグニート(土着の先人的な建築家)地下を掘ったのか、この地域にとってなぜ掘る方が良かったのかをちゃんと分析してやる。そのルールを解析してやる。
そのルールに基づいて掘方を考えていくと歴史と環境が結びつく。
計画的な最短ルート、ヤオトンの掘方のルール(歴史×工学)により基本的なスタディーを行い、最後には自分のイメージした地下を加えてやる。
大矢石砕石所の空間が参考になるかも。



田中
北千住の荒川の河川敷の環境を、堤防を操作することによって、住宅地に取り込む。

講師陣のエスキス
風を流すためだけに堤防を変えるのは現実的ではない。すでにこの堤防の形はいろんな要素を踏まえたうえで、この形に決まっている。
それを1つの要素だけで変えるのはいかがなものか。



清野
品川の運河沿いの敷地で、外部・超空調・空調の序列を組み替える。外部・非空調・空調 三層のスキンを考える。一番外側は親水性をもたせるスキンなど。

講師陣のエスキス
GLでの平面や断面を詳しく考えるべき。

巨大再開発計画みたいなスケールで計画するより、モデルケースとして、1棟を扱って設計した方がよいのではないか。
運河の水質はどうなのか。東京の都市河川は概して臭気の問題があり、そのまま利用できるのか。
それを裏返せば、都市河川の水質を良くするようなインフラも踏まえた提案になるのではないか。
中の環境がどのように良くなって、人の働き方がどう豊かになるかをスタディするべき。

人口膜の発想。そうして境界をあいまいにするのかのストーりーは持っていた方が良い。
現状(運河沿いの断絶)と案(建築と運河が浸透膜を用いることで運河の意味や運河沿いの風景が変わる)ことのパースを描く。
断絶したもの(川)に対して、建築が断絶したものになっている。かつて境界として設けられた河川の残骸に対して、建築もそこを境界としている。
→浸透膜により運河と建築を通す。土木と建築の浸透膜としても機能させる。



米澤
球の外皮に上昇気流が発生するような日射の当たり方を意識して切れ込みをいれる。

講師陣のエスキス
地面に接している部分が敷地。中国は今後エネルギー消費の増大に伴い原発が増える。土に埋葬された放射線物質に対するシェルターと機能させる。
2kmの球の中で何人が住めるか、どんな植生が必要なのか。
北京には何個の球が必要か。中国をはみ出て海に出ても面白い。羽山さんの案を参考に。自給の計算。全体は1万分の1のスケール、部分部分で1000分の1のスケール。



小原
日射を得る、避けるボリュームの傾斜角と方位角を季節と時間帯に分けて分類。
そのボリュームが屋内に対して充実したものなのか、室内に対して充実しているものなのかを発見した。
これらを組み合わせて、空間内において光、温熱環境をコントロールされた場所をつくる。

講師陣のエスキス
森山邸ができたことで周辺環境がすごくよくなった。周辺との関係が生まれた。森山邸の良さを分析する。どこで酒を飲んでいるのか。
気持ちい場所と時間を整理する。森山邸はアクティビティーまで意識してつくられた、今回の設計案は意識されてないからそこに様々なアクティビティーが生まれる。
スケールに関してはいろいろなものがある。
設計者は意図的に気持ち良い空間を設計する。利用者は無意識でそれに気づきそこでアクティビティーを起こす。環境デザインは意識的な無意識のデザイン。
人間のアクティビティ、空気感をパースに落とし込む。

太陽のもとで美しく見えるものは?ある一瞬がすごく美しく、劇的。
古代遺跡のメタファー。太陽に対してどういう風に建築は建ってきたのか
色々な美術品を見てみるべき。屋外のものと屋内のものの間を狙う。



吉冨
商店街のファサードに蔦植物を様々な形で配し、その冷熱で夏場冷やす。

講師陣のエスキス
既存を生かしながらいかに非空調空間をつくれるか。既存のビルの高さがまばらであるということはウィンドキャッチャーになっている。既存のビルの高さごとに屋根形状を考え、商店街に落とし込む形態をスタディーする。
屋根形状を風による街づくりのルールを決めてやるといい。敷地境界線に対し少しの操作でどうよくなるか。境界線に行う操作は街としての財産になる。境界を計画学的に共有するだけでなく、エネルギー的にも共有する。
まずは屋根形状のスタディーを。建物の隙間に設けるボイドの大きさはシミュレーションにより煙突効果が生まれるように設けていく。

垂直動線も類型化する必要がある。ミニマムな改編で効果がないと、商店街を扱うのであれば説得力がないと個人的には思う。商店街の緑の架構を具体的に考えないといけない。架構をどれくらい飛ばし、水はどれくらいやる必要がありなど。



石綿
都市のなかでのインフラの共存の方法を考えたい。めくった部分が常に負圧になるようなデザインを考えている。大きな水循環のシステムを敷地にあてはめてみようとも思った。酸素を送り込み続けてバクテリアを活性化していた現状を補助するような建築を考えれば面白いのではないか。

講師陣のエスキス
冷却する水が大量にあるのに生かし切れていなかったことに注目する水と地表面で熱交換をする列柱みたいのがあるといい。
超クールスポットを創りそこに風を吹かせ都市に冷熱を供給する。今まで臭気を届けていたものが都市に冷気を送る装置になる。
周辺に冷気を送るとともに、敷地内にはミクロは快適な居場所が出来る。そしてそこがライブスペースや超クールスポットなどになり使われる。

機能的なサーフェスと下の機構が詩的なつながりではないつながりがいえればいい。
周囲にも良い影響があたえられるようなものではないといけない。
現状では臭気の問題で、周囲のビルは自然換気できない。都市の緑地論まで語れないといけない。
サーフェスのあり方から、建物まで構築できればストーリーができる。



紺野
空調を分散配置し、壁を取り払うことで外に開けた非空調域をつくる。

講師陣のエスキス
今回の課題の趣旨をよくとらえた案。空調域の壁を取り払い、非空調域を増やすことが、建築としても外に開いていく。内に開くのは非空調域のふりをした空調域。
建物内部に木漏れ日のようなむらをつくり、風を通す。プログラムはそのむらに合わせて、与えてやればよい。プログラムごとの滞在時間、利用時間帯、最適な温度むらなどにより分類することでプログラムを加えていけばよい。
無意識を意識的にデザインし、無意識に利用者に感じさせることが大事。




黄砂が建築に吸着し、そこに植生が芽生え、やがて地面と一体化する。敷地周辺にアメーバのように溶け込んでいく建築。

講師陣のエスキス
メーバというなら細胞分裂は欠かせない。スタディーの経過として建築が細胞分裂を繰り返し都心の中に点在していくようなストーリーを作ってやると面白い。
細胞分裂のう法則は偶然のようで物理的な必然が含まれている。
細胞分裂の場合は重力に従って縦に必ず分裂するなど。建築の形の変化や砂を集める溝などのスタディーに物理的必然を加えてやる。
そのためにはシミュレーションを繰り返す必要がある。本当のアメーバのように、突然変異から生まれた形が環境的要因により淘汰され、また突然変異を起こし、また淘汰されやがて緑に覆われ、分裂するというようなストーリーにしてはどうか。
時間とともに成長していく建築という意味で、建築ができたときが一番良い状態ではないところが面白い。
中間講評で「砂を吸い込む」という表現がおそらく強く印象づいている、「砂を吸い込む」そのことで「土をため、そこに植生を芽生えさせ、やがて地面とつながる。
建築内部に点在していた植生のスポットがやがて敷地全体に広がり、分裂うを起こすことで最終的に都市の内部に点在していく。」というストーリーに言い換える必要がある。

今の模型は方向性がない。スタディを段階を踏んでやっていくべき。
シーンを考えること。四合院の屋根の高さを揃え、景色に取り込むなど。
美術館の仕組みも考えること。中が美術館である必然性は?形を生かすためにはどうするべきか。


松田
しろありの塚の形態で超高層をつくる。

講師陣のエスキス
複雑系の科学(カオス)によりシロアリの行動が決まっている。シロアリ一匹一匹は明確なルールを持たずに動いている、それが集合すると全体としてルールが生まれる。
創発」がキーワード。
単純な要素によい構成されるボリュームが共通であり、敷地に特有な環境要素(日射、風)によりサイトスペシフィックなものを創っていく。
作り方の提案。まずは作り方のルールを決めるためのシミュレーション。


総括
全体的にスケール感を伴わないものが多く、図式的なもので思考が停止しているものが多い印象です。
出題の際に、敷地の選び方がスケールに基づいて4か所選ばれていたことを振り返れば、今回の課題において、提案にスケールが直接的に関係するという意図がわかるはず。。
おそらく、敷地から距離をとって、新しい建築の形式を考える人もいると思いますが、自分で手が止まっていると感じる人は敷地にあてはめてみて、スタディした方がよいのではないでしょうか。
まあどの案も敷地にあてはめずに現実との接点を持たないわけにはいかないわけですが。要は手順の問題ですかね。一方向的な思考ではなく、違う側面からも見てスタディすれば案として強度を持つはずです。

なかなか手厳しいことを言われている人もいますが、可能性のある案ばかりだと思うので、引き続きがんばってください!