TA分散エスキス

今日は中間発表後初のTA分散エスキスを行いました。
意匠計画面を川島、中川、中島、大島が、シミュレーション技術面を高瀬、茅野、草川が主に担当しました。
受講生はそれぞれ聞きたい人に順番に回って現状を伝え、TAは基本的にその案に肉付けする方向性でエスキスを進めました。


以下、各受講生のエスキス概要です。


藤間

・現状案
熱媒を通す配管を縦方向にランダムに通し、配管同士の距離関係により平面的にむらのある空間をつくる。
プログラムとしてはノマドワーカーを主な対象とした複合施設。外部環境との関係はファサードの変化により操作する。

・良かった点
仕事の場所や時間帯にむらのあるノマドワーカーに着目した点。温度むらによる多様な空間という着想がノマドの行動特性などに適合しそう。

・今後の課題
配管の距離関係以外にも階高の変化やスラブの平面的なずれ、配管の距離感とともに平面に壁などを挿入することで配管による温度むらがより強調されるとともに、スラブのずれなどから日射や通風など外部環境をとりいれることもできる。
ノマドがどういうライフスタイルなのかは要勉強。



兒玉



・現状案
昼間に内部で発生する排熱を室内の配管に吸収させ、屋根部分に蓄熱する。夜間に放射を利用してその熱を宇宙に逃がす、といった無電化冷蔵庫の原理を利用して、北千住の飲食店における排熱問題を解決する。
計算によると放射により排熱を全て放出することは可能。

・良かった点
無電化冷蔵庫の原理を使い、その効果を定量的に検証しているところはいいが、今の状態では冷蔵庫の羅列になってしまっているのが惜しい。
屋根形状は放射を最適化する形をスタディーを行い、内部の熱輸送の配管の通し方で内部空間の多様性を創ろうとしているところは良い。

・今後の課題
現状の案では一つの建築内部で熱の収支が完結している。
周りにはこれといった影響はなく、北千住で行う意味も弱い。屋根面のスタディーを続けることは重要だが、一行で伝えられる案の面白さにつながる北千住のとがった要素を見つけ、コンセプトに関連付けられるとよい。



富山

・現状案
北京の地下鉄駅近くの敷地に、地下空間地上空間を利用し、それらを環境的な操作で一つにつなげる建築を作る。
全体の形状は煙突効果を狙った富士山型とし、ファサードでガラスの種類や開閉の操作を行いムラのある環境を作る。

・良かった点
ガラスの種類とか、現実のビルで工夫がされているディテールまで話が進んでいる唯一の受講生であり、
既存の建築の原則に真摯に向き合おうとする態度をこのまま持ち続ければブレークスルーが見えるかもしれない。

・今後の課題
建築をなぜ建てなければいけないかの問題設定が弱く、その建物が北京の人にとってどれだけ良いものなのか不明瞭。
自分なりの意志やビジョンで建築全体を貫くストーリーを作ることが、今後の大きなステップアップにつながりそう。


北潟

・現状案
品川の街を分断する一番の原因である食肉市場の一部を品川の街中に分散させて、既存の場に新たな価値を与えると同時に、
空いた部分を街全てをつなぐようなものを設計することにより、食肉市場の文化によって品川全体がつながるような街づくりを構想する。

・良かった点
原状ではただ蓋をされ歴史的にも忌み嫌われてきた存在である食肉市場を開放する必然性を、都市の丹念なリサーチから導き出した点が非常に良い。
また、家畜を「環境」だと捉えて価値転換をすることで設計に活かそうという視点が斬新である。

・今後の課題
テーマを導き出すのに時間がかかって、建築の具体的な姿がまだ示せていない点が弱い。
また食肉市場や家畜から発せられる汚染物質が、都市の中に発生源が分散されることにより街にとってどんな良いことがあるかの気流シミュレーションを行なって、工学的にも案を検証していくことができればなお良い。



・現状案
安定した地中熱を利用して北京地下鉄駅空間の非空調化を目指す。形状に関してはヤオトンの形成過程を分析した研究を参照し、蟻の巣状に地下を這うようなイメージ。
簡単な地中温熱環境をCFDの解析した結果、温度ムラがほとんどないことが分かった。

・良かった点
モビリティ・倉庫と換気に着眼して、今後変化していく人・物の流れと空気の流れを結びつけようとしている点が他の受講生には見られない面白い着眼点だった。
また、ヤオトンやモビリディに関する本を何冊も読み込んでいて、課題への取り組みの熱心さが強く伝わってきた。

・今後の課題
やみくもに読書によるインプットを増やすのでなく、理想と考える地下空間に関係する要素を抽出し、整理することを心がける。
焦ってなんとなくではなく、日射・風・熱環境などの何を検討したいのか目標をもってシミュレーションを回す。
理想とする「非空調地下空間」について10分語れるようにする。

田中

・現状案
中間講評時と変わらず。堤防に構築物を造る。

・良かった点
堤防が川辺の空間と町の断絶を引き起こしているという考えはブレていないが、そこをどうしないといけないかという考えは浅い。
町に川からの風を堤防を越えてどう通すかというのを考えるのは、単純に楽しそう。

・今後の課題
まずは現状の川辺の風の流れを解いてみることで、堤防が邪魔で町に風が吹きにくいというのは出せそう。
堤防になんらかの整流板を付加することで、風を通すし堤防の両側の空間をつなぐデバイスとしても機能するようになる。



清野

・現状案
品川の運河沿いのビルが外部とは無関係に閉じて建てられているため、熱環境的にも計画的にも分断されていることに疑問を覚えた。
外壁の代替となりうる薄いスキンをレイヤー状に設置し、その間に生まれたバッファゾーンに商業、その内側に住居、最も内側にオフィスのプログラムを入れる。

・良かった点
様々な観点から都市リサーチをした結果、運河の分断がこの地における最大の問題点だと体感を伴って提言していたこと。
それをペリメータ部の反転という操作を行うことで、いくつかの綺麗なスケッチに描き起こして建築提案につなげようとしていたのに驚いた。
さらにその結果生じる夏と冬に分けた際の定性的な問題点を指摘する洞察力が素晴らしかった。

・今後の課題
なぜ内外をつなげたいのか、どのようにつなげたいのか、より明確な設計の軸が必要。
内外の不連続性を解いた事例を調べる。計画学では頻繁に取り上げるこのテーマに対し、環境的側面で解くことによりどのようなメリットが生まれるのか再検討する。
浸透圧を利用した線状バイオスキンではどこまで潜熱処理が可能なのか手計算する。



米澤

・現状案
最大限のムラを生み出す球型の建築を構想する。球であることで、外皮の環境により細かいムラが表れてきて、環境的な特異点を生かした設計が可能となる。
スケールについては現時点では超高層ビルくらいのものをイメージしており、それぞれの場所性を生かした建築的操作を加えていく。

・良かった点
早いうちから1つの案にじっくり向き合い、様々なエスキスや講評を受けながら、自分なりに案をより強固なものにしていこうとフィードバックしていく姿勢が見えるところ。
中間講評の時の迷いと比べて、自分自身のやりたいことが明確になっていて、これから突っ走っていってほしいと思う。

・今後の課題
50階建て位を想定し、断面図上でやりたい建築の操作を書き出していってみる。その際に重要なことは、その球型の建築にできる環境的な特異点(特に太陽)を意識すること。
それぞれの特異点でどんな面白いことが起こりうるか、また中心部分はどうなるのか、具体的なビジョンに落とし込んでいってほしい。


小原


・現状案
太陽の動きを細かく捉えながら、建築の配置や傾きを考えていく。それにより、屋外空間の環境までしっかり解いていく。
スタディとしては、まず単純なモデルにおいて、夏至・春秋分冬至の各時間帯において最大の受光量となる傾きを想定。それぞれにおいて全ての時間帯の受光量をプロットしていた。

・良かった点
まず、とにかく手を動かしていたこと。それにより、各傾斜面におけるひとつの特徴を全体的に捉えられ、仮定があまり成り立たないことも気づけたりした。
また、それらの塔をどう組み合わせていけば良いのかを少し考え、形に落とし込むヒントを掴めていたのがすごく良かった。

・今後の課題
目標設定をもって建築の組み立て方を考えていくこと。「常に影になる外部に開いた美術館空間」「夏は最大の日陰空間、冬は最大の日向空間をもたらす広場」など。
まずは簡単なスタディを積み重ねる。全ての日時においての最適化はできないので、自分なりに優先順位をつけていくことが大事である。

石綿

・現状案
品川の下水処理場を敷地に、めくるという操作によってその下水処理場という普段の生活からは接点がないプログラムとの関係性を構築しようとしている。
下水処理場のエネルギーを減らす建築としての側面もある。

・良かった点
敷地の読み込みが精確で、面白い敷地選定をしている。
もっと大きなスケールの都市的な水インフラシステムの提案になる可能性もある。

・今後の課題
下水処理場の敷地でどのようなアクティビティをさせたいのかが不明確であり、そこが明確にならないと、どのような建築が必要とされるかが見えてこない。
めくるという操作の整合性を判断することも難しい。



紺野


・現状案
居場所をつくりたい。その際、設定条件として考えているのは、成城学園前駅の駅ビルを、豊かな非空調空間の居場所を生むように組み立て直すこと。
まずは現状のプログラムを調べ、最小限の空調空間をつくりながら、色々な人の居場所となるような非空調空間をつくるあり方を考えていく。

・良かった点
自分の実現したい空間を、なんとなくでもずっと貫いているところ。また、目立った前進はなくても、リサーチやシミュレーションで試行錯誤することができているところ。
シミュレーションにおいては、もっと細かいところの変化を気にすることで、見えてくるものは沢山あるのではないかと思う。

・今後の課題
ある程度案の外枠を決めたので、これから定数と変数をどのように設定するかということ。
まずは設計する非空調空間によって駅がどのように街に開き、良い効果をもたらしうるのか、具体的なビジョンをもってほしい。そこから、案の組み立て方を決めてスタディしていく。




・原状案
空気中の砂の動きを変化させて、建築への吸着を意図的に操作することにより建築の表面、外部に植生を生み出していく。
5年後10年後15年後30年後と時間をかけ、植物の成長とともに都市に馴染んでいくような建築を構想した。

・良かった点
ターゲットを砂にすることで、環境建築の新たなあり方に結びつく道筋を示せている点は大変良い。
また、数多くの模型を作り、形のスタディを貪欲に続ける態度は、他の受講生には見られないので非常に良い。

・今後の課題
砂と植生の関係や、砂と建築を覆う材料との関係をしっかり考えることで、その建築がどのような用途で使われるのか、その建築の周りでどのような人のアクティビティが発生するのかにつなげなければならない。
中国の思想や文化を砂・植物・材料に落としこむことで、中国社会で本当に必要とされる建築のあり方を示して欲しい。



西倉

・現状案
中間講評から引き続き、質量のデザインを標榜。雨、風、熱、光に環境的なパラメータをわけ、カタチの操作とどのように関係するか整理していた。
どのようにシミュレーション、スタディをするべきか、苦心していた。

・良かった点
環境的なパラメータとカタチの操作の対応を明文化し、スタディすべき道筋を論理的に考えているので、スタディの仕方が決まれば、手際良く進んでいきそうな予感。
そうすることで、現実との接続点、単なる建築の形式論以上のものができる可能性がある。

・今後の課題
スタディの仕方が非常に難しいなかで、いかに効率化が図れるかが重要。
これは西倉君個人の問題というよりスタジオとしてどれだけ技術サポートができるかが問われている。



吉富

・現状案
商店街のプログラムや、所有の形態、ファサードを調査。その類型からカタチを導き出そうとしている。
夏を主に考えており、商店街に接する建物をリノベーションして、換気塔のような機能をもたせることで、非空調域をつくりだそうとしている。

・良かった点
詳細に商店街について分析しており、その類型からリノベーションの類型をつくりだし、新たな形式を導き出す可能性がある。
単なる1戸ごとのはなしにとどまらず、商店街全体の再構成までできればより射程の長い提案になる。

・今後の課題
カタチの自由度が低い中で、1戸ごとのリノベーションと、商店街全体のアーケードの構成、どちらから造形していくかというところで手が止まっている。
両方から検討していけばいいとは思うが、全体像をある程度イメージする必要がある。




また、手作り風洞実験器がついに完成しました!


木曜に実際に触れる場を設ける予定です。
今後の課題を参考にしながら、引き続きブラッシュアップを進めて行きましょう!