中川純様レクチャー

4月24日、レビ設計室 中川純様にレクチャーをしていただきました。


以下はレクチャーの大まかな内容です。





・「か・かた・かたち理論」
【参照:菊竹清訓著「代謝建築論」】

設計のプロセスを

<か>原理 :vision 

<かた>法則性 :system  

<かたち>現象 :form

と捉えると、当時は、visionとなる大きな物語があった。 
【参照:ジャン=フランソワ・リオタール著「ポスト・モダンの条件―知・社会・言語ゲーム」】
しかし、今はvisionとなるものがなくなり、構造などといった技術が先行する時代になった。



・3.11以降の日本をとりまく現状

原発の問題は建築が原因ではなかったか?オイルショック後、民生エネルギー(住宅・オフィスビルの消費エネルギー)は2.5倍になっている。また、日本のエネルギー自給率はたった4%(原子力を輸入とした場合)である。 建築に何ができるのか。ここで、visionをでっちあげることを考えてみる。



・「エネルギー危機を乗り越えるための3つのステップ」
【参照:イヴァン・イリイチ著「エネルギーと公正」】

1.規制
2.産業の転換
3.制限のある社会

1・2は今まで取り組まれてきたが、3は一番難しい問題であり、制約を受け入れるような建築を作ってこなかった。
これを、先ほどの実践のプロセスに当てはめてみる。

<か>原理 :vision  …制約を受け入れる文化

<かた>法則性 :system …非空調空間

<かたち>現象 :form …≪ここが今回の課題!!≫

Visionを「制約を受け入れる文化」と仮定し、systemを「非空調空間」としたとき、どのようなformをつくることができるだろうか。非空調の空間を作るシステムはまだ確立されていない。新しい時代のビジョンを生むようなかたちをつくることが今回の課題である。



・ご自身の作品紹介

○「箱の家ではない」
ICタグによって誰がどこを歩いていたかをセンシングし、可視化を行っている。床暖房の運転をコントロールし、床温度にムラをつけることで人の行動はどのように変わってくるのか。そもそも、「快適」ということばは快い状態に適するという意味であり、行動を伴った概念である。温熱環境のムラによって人間の無意識な行動に影響が出るという仮説に基づいている。

○「温熱環境によって機能を与える」住宅
CFDや熱回路網計算NETSでの検討により、少ないエネルギーで温熱環境をコントロールする。リビング21℃・浴室23℃・寝室15℃など、部屋の用途ごとに目標温度を設定し、意図的な温度むらを作っている。

○乾先生の延岡プロジェクト →詳しくは乾先生レクチャーにて
緑のネットワークによって屋外環境を良くすることを考えた。オルゲーの快適性範囲からは、風は体感温度を下げ、日射は体感温度を上げることがわかる。これらの効果を生かせるような木の植え方の提案を行った。



・X-29(戦闘機)について

今回の課題のヒントとなるかもしれないもので、羽の向きが明らかに変だがこれはドッグファイトにおける小回りを重視してのことである。あえて羽を前後逆の形にすることで、不安定な状態を作り出した。これも一つのvisionをもってsystemを構築し、formまでたどり着いたデザインである。



・結び

設計者は何を信じてかたちを作ってきたのだろうか。今までは空調のことなど考えずに自由に空間を作り、裏側に室外機を置いてきた。それは空調の力を信じていたからだと言える。現在においては全部を非空調空間にする必要はないが、空調に頼らない空間を作ることが大事である。それは、空間の力を信じることであり、制約で建築と人間を結ぶことである。今回の課題は空間とは何のためにあるのかを考える、非常に射程の長い課題である。



・質疑応答

TA浜田さん:「住宅でむらをつくることと、公共空間でむらをつくることは、意味が違う感じがする。この課題では、公共空間をひとつの指標でとらえるのは、いいのだろうかという疑問がある。」
中川様:「今回は新しいかたちのvisionをつくることが目標。様々な人々を対象にするが、これが快適という指標・ターゲットは、自分の決め付けでもいい。寒かったら一枚羽織ればいいといってしまってもいい。その場合、服を脱ぐということをアフォードするような空間をつくれば良い。」

TA川島さん:「先日、ノマドワークスタイルを実践している人の話を聞いた。既存の定常なプログラムをいかに分解するかという問題でもあるのではないか。」
中川様:非空調空間を作ろうとすればファサードや平面が変わってくるし、生活スタイルも変わってくる。
結局は「人」の問題であり、どんな形・温熱環境を作るにしても、ライフスタイルを提案するものにならなければいけない。

受講生紺野さん:「箱の家ではないの実際の結果はどうだったのか?」
中川様:「まだ実験中でまとめきれてはいないのだが、はじめは冬でも半袖で生活するような家だった。そこに疑問を持って、むらを作って生活することを提案した。それで、クライアントの動き方が変わってきたという実感がある。今回の課題の2000m2という広さにおいては大きな変化となりうる。」

受講生小原くん:「「箱の家ではない」では、床温度が変わっているが、空気温度はよりグラデーショナルに変わっている。その境界を人が感じることはできるのか?」
中川様:「空気温度というより、床の放射温度でムラをつくっている。移動による快適さの感覚を操作することによって、非空調の空間を減らしている。快適性に関して、人がどう感じるかを定量的に判断するのは難しく、設計課題においては仮説でも良い。」

TA川島さん:「環境省エコハウスの例で、こたつの中にしかいれないといった状況は住む範囲を狭めていると言える。「箱の家ではない」のような、快適性が損なわれていない、空間を広く使うという意味でのムラを考えることが大切なのではないか。」





中川純様からはご自身の明確なビジョンについてお話しいただきました。
建築を考えるのにおいて、自分自身の価値観を信じ、自分なりの評価軸を作っていくことの大切さを感じました。

今回の課題の意図もより深く理解できたのではないかと思います。

貴重なお話をいただき、ありがとうございました。