羽鳥達也様レクチャー

続いて、日建設計 羽鳥達也様にレクチャーをしていただきました。

以下が大まかな内容です。



・今までの前スタジオを振り返って

前スタジオには設立当時から関わってきた。

設計のプロセスとしては、以下である。

リサーチから問いを立てる

次の時代を豊かにしそうなものを見つけて可視化する

コントロールすることで建築のデザインにつなげる

検証できる範囲で検証する(温熱環境・風環境などにおいて):ここが前スタジオの良いところ!

今までの前スタジオの反省点は「社会問題解決軍団」のようになってしまうところ。それも重要だが、実は社会の中では既に気づかれているところでもあり、新しい発見はなかったりする。
デザインとしてしっかりしたものにするには、自分の提案を成立させるストーリーをプレゼンテーションしなければいけない。いかに多くの人に共感してもえらえるか、そこに客観的な指標を持たせることが前スタジオの真骨頂である。どんな形をどこに作るかのひとつの手法として逃げ地図の話を聞いてほしい。



・逃げ地図

最初のリサーチでは客観的なストーリー見つけることと、クライアントの個別的なストーリーを拾い上げることの両方が重要。固有性をリサーチすることの究極のポイントは現地の人にアプローチすることである。それらを拾っていっていかに普遍的なところに持っていけるかである。逃げ地図のきっかけも、気仙沼市の高橋工業への募金活動であった。

「漠然とした不安」を具体的に見えるようにするツールが必要。「浸水リスク」や「避難リスク」を共有することが街づくりの合意形成につながる。という仮説をたてた。

最初のステップは、地図に津波による浸水範囲を重ねて、高台への逃げ方の指針を作ることだった。避難ポイントへ、から5分毎に徒歩で到達する距離に色を塗っていく。コントロールする下地としてのリサーチである。
そして、防災対策と時間スケールとの関係を整理した。堤防とか高台移転は時間がかかるので、道をつくるという一番短時間でできる。
例えば、避難ポイントへの近道をつくることによる効果を客観的なデータで示していく。それに施工期間・コストもプロとして示していく。これだけやって、どこに何が作れるかを初めて描くことができる。ここが既存の復興計画と一番違う点である。

コストがかかる高台移転を、いかにミニマムに作れるか提案している。危険性が高い部分から移転させていく。街の文化的な営みが行われる集会所を避難上重要な経路に移転することによって、普段の街のアクティビティと避難行動を重ね合わせて行く。共感を得られる要素をしっかり汲み取ることが大事。

手書きの地図では人の逃げる行動、どの場所に何人避難できるかを検証するには限界があるから、シムトレッドというシミュレーションにより検証した。


逃げ地図は、今の街をいかに変えないで、防災的に、また文化的に豊かな街にしていくかが最終的な目標である。高額な費用がかかる美術館を作れば文化的に豊かになるわけじゃない。低い予算のなかでいかに考えるか。

逃げ地図の試みは色んな地域に波及しつつある。コミュニケーションのためのツールとしての開発として、「逃げ地図2.0」をつくっている。それをもっと幅広く世界に広めるために街の地図をモデリングし、WEBにアップし、誰でも逃げ地図をいじり考えられるようにした。
「逃げ地図.com」で検索してみなさん是非いじって下さい!

現地でどう展開しているかというと、行政としては住民側に提案を作って欲しいという本音がある。逃げ地図をベースにして住民中心の街づくりができるよう、今後も継続的に努力していく。



・SONYCITY大崎のランドスケープ

「種まきプログラム」というプログラムによるコンピューテーショナル・ランドスケープデザイン。都市に木を植えることに対して文句を言う人はいない。それをいかに高度にやるか。木を植えることが問題解決の手法に昇華するように突き詰めて考えた。

SONYCITY大崎でいかに木を植えていくか。ビル風を防ぐために必要な木やヒートアイランドを抑制する木など、行政側のしばりで植えなければいけない機能植栽を初期条件とした。物語性が強いランドスケープデザインを工学的に解いていった。

場所の様々な条件を重ね合せて見えた、敷地内の環境の微妙な差異に対してどう働きかけるか。限られた予算の中で、木が健全に育つための条件をプログラムによって決める。景観の豊かさ、ヒートアイランド抑制のための木陰など様々な事項が自然につながってくるようになる。

サイズから決まる木のテリトリーの調整、種の組み合わせによる自然淘汰のコントロールをしていき、メンテナンス上でも低コストな森にしていく。植生生成プログラムにより、何年後にどういう森になるかという時間軸のシミュレーションも行った。

種まきプログラムのように、問題解決型ではないものをどのように先鋭化していくかという案が前スタジオから出てくるのを期待している。



・SONYCITY大崎のバイオスキン

陶器のルーバーに水を流すという発想のきっかけは、バルコニーに出られるオフィスがあったら良いと考えていたこと、また自宅でマンションのバルコニーに水をまいたとき一気に家の中が冷やされたて心地よく感じたことである。
以前から言っているが、日常の中からいかに発見をするかが大事と実感したプロジェクトである



・結び

リサーチは提案が終わるまで終わらない。
問題解決・問題提起の要素を意識しながら提案を考えていくこと。
問題を解決するデザイン、問題を解決しないデザイン双方をいかに見据えられるかが大事である。



・質疑応答

受講生西倉くん:なるべく多くデータの可視化してくことが大事といっていたが、積み上がれば積み上がるほどデザインはしにくくなっていく。どうやってまとめてデザインに落とし込んでいくのか。
羽鳥様;まさに次の時代のデザイナーにこれから求められることで、いかに偏在した情報をまとめられるかである。リサーチから得られたデータをいかに社会に接続していくか。リバースエンジニアリングである。
例えばiphoneは,操作する楽しさという新たな評価軸を取り入れて開発され、ドコモの携帯が作りあげたスペック至上主義を打開した。環境建築も同じで、SONYCITYでは水に着目しビルの外の人までをつなぎ合わせる提案をし、それを打開した。
受講生西倉くん:デザインする上でなんでもかんでも採用するより、そこでの取捨選択も大事、ということか?
羽鳥様:まずは色々リサーチしたとき何が重要かの重みづけが重要。プライオリティが変われば提案も変わってくる。それを行ったり来たりするのである。

末光様:バイオスキンのようにオリジナルに作ることは、環境とデザインを両立させやすいが、コストがかかる、性能を保証しにくいなど、様々なリスクを伴っているのではないか。どう特注品に持ち込むかの戦略についてどう考えているか?
羽鳥様:小さなスケールになればなるほど難しいが、既製品をアセンブルするという方向にも可能性はあると思っている。新しく付け加えるものがあったら、その代わりに何かなくすことでバランスを取る方向性があるのではないか。編集が大事である。そのため、既存のものに対し、特注品がいかに価値があるかを定量的に示すしかない。

中川様:逃げ地図は色々なレイヤーが重なり進化してきて、このシステムは50年後も生きているのではないかと思うが、100年後はどうなっているのか知りたい。
羽鳥様:中川さんは聖書につながる壮大な話をしたが笑、逃げるという行為は普遍的な行為である。しかし逃げるという感覚は時代が進むにつれて弱まっており、そこを補完するものがなければならない。その点を極点で捉えているのが逃げ地図。
中川さんは聖書につながる壮大な話をしたが、逃げるという行為は普遍的な行為である。しかし逃げるという感覚は時代が進むにつれて弱まっており、鈍ってしまった感覚を補完的に生きていかなければいけない。その点を極点で捉えているのが逃げ地図だと考えている。例えば、「てんでんこ」は広まっていなければいけなかった。テクノロジーがあるからできること。人間は欲望によって進化していくが、その代償としてどんどん馬鹿になってき、それが輪廻のように繰り返される。
逃げ地図がどうなるかというより、人間がどうなっているかという問題である。



「社会問題解決軍団」というお言葉は痛烈でしたが、「環境を考える」というと客観性が明らかに強く、固有性が薄くなってしまうように思います。
前スタジオが一歩前に進みたい部分はまさにそこで、無意識にでも感動を生むような要素としての環境を考えていくことの大事さを感じました。

また環境以外にも考える要素が膨大にある中で、自分自身が提案において環境をどのように位置づけるのかを常に心得ておかないといけないと思いました。


羽鳥様、お忙しい中ありがとうございました。