MAD Architects見学

TAの川島です。前スタジオ中国研修二日目の午後には2009年から前スタジオの講師を勤めて下さった早野さんと中国人スター建築家Maさんが共同主催するMAD Architectsの訪問をしました。川島にとっては2011年の4月から10月の6ヶ月間インターンとして働いていた事務所だったので、当時の友達との再会など感慨深いものがありました。

見学は早野さんによるMADの紹介のプレゼンテーションから始まりました。内容は以下に箇条書きにまとめました。

・最初にFish Tankの紹介。キューブの中に住みながら主に光のある壁際で生活する人間と、四角い金魚鉢の中で壁際や角ばかりつついている金魚は同じだと捉え、ユーザーとは切り離された場所で建築がデザインされ続けている状況への批判として、金魚の動きの観察から導いた内部と外部が複雑に入り組むFish Tankをデザインした。
・Absolute Towerのプロジェクトでは郊外都市におけるタワーの一般解とは何かを考え、楕円形のフロアを少しずつ回転させた多様性を持つ形状をデザインした。その優美な曲線から地元では「モンロータワー」と呼ばれ、子供たちにも愛されているプロジェクトである。
・800meter Towerのプロジェクトはツインタワーをデザインするコンペだったが、2つのタワーを上部で接続することによって、800mのタワーの頂部が地面に着地したような形状をデザインした。毎年毎年「世界一の高さ」が更新されていく状況への皮肉でもある。タワーの「高さ」をいかに都市とコミュニケーションさせるかに気を配った。
・昨年に竣工したOrdos Museumでは、砂漠の中に置かれた石、その中にモンゴルの歴史が刻まれているというコンセプトでデザインした。有機的な形状を実現するためにいろいろな素材を検討したが、やはり初めての大規模な建物なので素材の特性を生かしきることができなかった。これからも色々な素材で挑戦を続けていきたい。
・中国は施工精度が低いと文句を言う建築家が多いが、根本的な原因は施工管理にまでクライアントがタッチさせてくれないことにある。しかし文句を言っているだけでは始まらないので、中国で如何に精度の高い、クオリティの高い建築を作ることができるかに集中する時代になってきている。

早野さんの早口かつ内容が濃い話術による超スピードで行われたプレゼンテーションでしたが、数多くの大規模プロジェクトをこなすMAD Architectsの力を再認識させられました。個人的には自分が在籍していたころのプロジェクトの基本設計が終盤に近づいていて、着実に実現に向かっていることが嬉しかったです。

次にMAD の事務所内の見学を行いました。MAD事務所は、古いレンガ造の建物を改装し、白を基調としながら、高い天井に古い木造の小屋組を見せた空間です。その中で50人の所員が働く様子や、壁に貼られたプレゼンテーションや模型を、Maさん早野さんの案内で見て回りました。

ダイナミックな模型や図面に皆大きな刺激を受けたようでした。

見学の最後に、前先生による「環境工学を考えた建築のデザイン」のレクチャーがありました。レクチャーにはMADの所員全員が集まり、満員状態の部屋でのプレゼンテーションが行われました。

内容を以下に箇条書きでまとめました。

東日本大震災により引き起こされた原発事故の問題を取り上げ、その影響によって日本の建築を取り巻く状況が如何に変わったかの説明。
・これからの日本に適合する建築は何か、適合しない建築は何かの問題提起。

・設計者が環境工学をもっと意識するようになれば建築デザインと環境工学の幸せな帰結が得られるのではないか。建築の空間に対する情熱を持ちながら、物理の原則を冷静に見極める“Hot Heart, Cool Head“の態度で建築を作って欲しい。人間の勝手な都合で何を考えても、物理の原則が曲がることはあり得ない。

・太陽や風の動きは直線的ではないので、本当に適合する形はキューブではないはずだ。MADの曲線が環境に適合するようになれば面白くなる。これからは中国が世界を引っ張る時代だから是非質の高いデザインを続けていって欲しい。

MADの所員からは「建築家は詩的な発想から空間を作り出す職能に特化すれば良く、エンジニアになる必要はないのではないか?」「環境工学の原則に真面目に取り組まず、単に省エネルギー基準等の国の規制をすり抜けていくだけのデザインに疑問を感じていたので、今取り組んでいるプロジェクトに大いに参考になった。」などの様々な感想が出てきました。完全に建築の形状だけに特化した事務所にこのような刺激を与えられたことは大きな成果だと思います。