前スタジオ内中間講評

この日の前スタジオは中間講評に選抜されなかった人も含めた、前スタジオ内中間講評でした。1,2ターム目は中間講評に出さなかった10人、3ターム目は中間講評に出した5人という順番で行いました。

クリティークとして、前先生、この日が最後の日建設計の川島さん、首都大学の一ノ瀬先生に来て頂きました。

まずは第1タームから。

・田中さん
北千住荒川の河川敷で、この場所は非常に環境が良いから選んだ。周辺の高密の下町と土手の向こう側の河川敷ではかなりの印象の差異がある。堤防の一部を本来の機能を損なうことなく建築化する。具体的には筒を地面に埋め込んだ形状をしている。う
ねった平面机上は色んな方向の風を周りに流す役割である。

川島さん「機能がわからない。田中さんは川辺のアクティビティの補助と言うが、いまのままでも十分できるのでは?
前先生「土手に木を植える以上の操作ができますか?」
川島さん「土手の気持ちよさを発見した時に、その良さを感じるための空間をその場所に作る理由がない。発見とアウトプットが直接的すぎて何も生産性がない。」
前先生「堤防としての機能を満たしつつ、何か付加しようという意志はわかるが。。もっと悪い場所とか問題がある場所を狙ったほうがいいのでは?堤防にはもっと環境の悪い場所とか暗い部分があるはずだからそこを対象にしてみては?」
川島さん「この案の問題意識は何ですか?堤防の環境を享受できないことに問題意識があるのなら、それを周辺の街に良さを分配するという発想もあるよね。」


・紺野さん
誰もが自分の居場所だと感じられるような建築を作りたい。プログラムとしては学童が使う児童館。彼らの鬼ごっことかかくれんぼとかのアクティビティにあわせたムラのある環境を作りたい。環境的な緩やかな境界で建築を構成し、学童の遊びを保護者が程よい距離感で見守ることができるなど、学童を中心としたコミュニティをゆるやかにつなぐような建築が作りたい。

前先生「木のメタファーだけの話だった時よりすごく良くなったね。」
川島さん「このあとどうやってスタディしてこの建築をディベロップさせますか?まだまだ全部の印象が獏としているとスタディの取っかかりがないように見える。コンバージョンとか、現実の建物に付加していくというやり方の方が良いかも。それでもゼロから作りたいのであれば止めないけど。」
紺野さん「アクティビティのムラみたいなものと、環境のムラを組み合わせて解きたい。かくれんぼするのに最適な環境とか。」
川島さん「子供だったら原っぱでも環境のムラを見つけて遊べるから。結局そういう作られたムラ、計画された楽しさみたいなものは遊園地と一緒じゃないか。」

紺野さん「子供と言っても小中高生みたいに色んな種類を想定していて。程よい距離感で同居させられるような空間が良い」
川島さん「それは校庭じゃダメなの?」
紺野さん「校庭じゃ勉強できないですし、そういうアクティビティも全部引きこむようなものにしたい」
川島さん「まずは、できるだけ少ない操作で狙ったことができるかというスタディをした方が良いよ。」


石綿さん
品川の芝浦水再生センターが敷地。企業の本社ビルと巨大な平地が隣り合っているという状態がすごい場所。都市の中心のインフラがあり方、価値を再考したい。施設に蓋をしつつも地域とつながりをもたせるために、人工地盤を水面の上にかけ、一部をめくりあげることによって空間を作っていくことを考えた。

前先生「何かできそうな気がしてきました。めくるって操作は良い」
石綿さん「めくられた場所っていうのは好奇心をかきたてるというか、そういう吸引力があります。」

川島さん「元々あった超高層建設計画は相手にしないの?僕も形態操作の方向性は良いとは思うけど、社会的な問題設定に乏しいよね。この建築によって今の状態よりどう良くなるんだろうか?なぜ水道局がこれをやるのかというビジネスモデルの話とかがないと建築にならない。」
一ノ瀬先生「こういうオープンスペースが貴重だという話は分かる。ヒートアイランドとかと結び付けられないかな。。水の循環とか。」


・藤間くん
データセンターを一箇所に集め、コンピューターをクラウド化し、その排熱を利用して空調することにより、ノマドワーカーが使用する自由なオフィス空間を作る。電子的なコミュニケーションが、物理的な身体を満足させる熱を作るというイメージ。外皮はダブルスキンなどで操作して、なるべくデータセンターの熱利用だけで快適になるような空間を考えている。

前先生「東京モード学園みたいなファサード、形状だね」
藤間くん「外部遮蔽ルーバーとか使いたいです。風とかも解ければ良いなと。」
一ノ瀬さん「フリーアクセスフロアみたいなものですか?」
藤間くん「フリーアクセスフロアとかじゃなくてそれどころじゃないです!公園のようなものも内部に取り込んで、人々が自由に内部で働きます。」
前先生「この形は外部空間を作るための形に見えるけどどうなの?何のためのもの?何を最適化するための形なの?」
一ノ瀬さん「こういう高層ビルだと、空気の圧力分布で中性帯があるので、そういうものを手がかりにできないですかね?」
川島さん「プログラムの話はアヴァンギャルドなんだけど、形の話になると組織設計事務所みたいな笑 プログラムと建築の形のつながりがかっこ良ければジャンプする案。まぁだけどノマドワーカーって固定の空間が必要ですか?とてもそうは思えない。」


ここからが第二タームです!


・北潟くん
既存の都市空間をランドスケープとして捉え、そこに微気候を発見していく。微気候はある程度小さな空間にしか生まれないのではないかという仮説に基づき、品川の中に5つのポイントを発見した。そこに寄生するような小さな建築を作ります。その操作によって歩行者のを道に引き出すような建築を作りたい。

前先生「結局形は何になったの?」
北潟君「形はまだできていないです。色が塗られているところ、アスファルトの道路に小さな空き地が接続されている場所に作ります。」
前先生「現地に行ってきたリサーチの話がぜんぜん伝わってこないから問題意識が共有できないんですが。」
北潟君「まわりに寄生するには、できるだけ変わらないものを手がかりにしたい。例えば道の形は変わらない。その形状を環境的に読み解いて、それを手がかりに建築を作れば最大限の効果が得られるのではないか。」
前先生「もう神の目をやめれば良いのに。このままじゃ自己満足的な案になる。君が敷地に見つけたポテンシャル可能性ってなんですか?全然分からない。」
川島さん「スタディの始めとして、一つの場所で真面目に設計すれば良いのでは?微気候を読み取るって結局普通の戸建住宅でも同じ事をしている気もするけど。。」


・兒玉くん
無電化冷蔵庫のシステムを建築に当てはめる。日中は周囲から熱を吸収し、夜間輻射を使って宇宙に熱を捨てる、周囲の熱を処理するような建築を立てたい。この建築が徐々に増えていくことで都市を冷やしていけると良い。

前先生「このコンセプトをやるんだったら一軒の家では成立しないと思う。君が作る建築でできる都市のランドスケープのようなスケールを目指せば良い。」
川島さん「外部の熱をどう処理するかあまり理解できかった。熱を取り込んだら内部の環境はどうなるの?」
兒玉君「この建築は巨大な熱容量を持つ必要がありますが、キャパオーバーすると確かにその建築の内部空間が犠牲になるのは避けられません。」
前先生「都市ののヒートシンクという言い方でやるのは一つあるね。宇宙に夜間放射で熱を捨てる最適な屋根の形をつきつめていくと良いのでは?そこに風を組み合わせていくのか?CFDが映えるような案になりそう。ディテールをつめないとけちょんけちょんに言われそうな案ですね。」


・林くん
地下鉄駅をデザインする。地下鉄という既存のモビリティとレンタサイクルなど新しいモビリティをつなぎあわせたい。地下空間はうまくやれば空調いらずになる可能性があるが、現在は何も考えずに無機質に構成されているため、勿体無い。差し当たり地下空間における4つの空間パターンをシミュレーションした。それらを組み合わせることによって、空調のいらない地下鉄の駅を作りたい。

川島さん「やりたいことが明確になってきた気がして良い。」
前先生「いかに地表面を凸凹していけるかが勝負かな。地面との接し方を考えると良い。地下鉄の駅を掘り、その土を盛り、恣意的に凸凹させていくと温熱環境とか風環境とか操作できるとかのストーリーを描ければ。」

川島さん「この案は建築の形状の可能性を信じきった方が良い。テクノロジーみたいな言い方をしないで。」
前先生「ヤオトンがインスピレーションなら、その良さ、悪さをしっかりリサーチして下さい。ノスタルジックな昔は良かった論にならないでほしい。」


・清野くん
品川は東海道の宿場として栄えた。そこに商業、交通などのレイヤーが積層していき、今は東京の玄関口として働いている。しかしその積み重なったレイヤーによって運河と建築の関係が幸福でなくなってきたのも事実。新たな環境のレイヤーを重ねることで、品川の運河を再生したい。

川島さん「なんか変わりましたか?」
清野くん「堤防って話をなしにしました。」
川島さん「建築と川の関係が悪くなっているところを選んできて、それを建て替えるという話なら、建築設計として逃げていないと思う。正統派だね。」
清野くん「風と日射を使ってひたすら形を求めていきたいと思います。」
川島さん「ただし、今までにない建築を作って下さい。これしか言えないです。」


・富山くん
北京の交通インフラは麻痺寸前である。北京の敷地に地下鉄駅駐輪場商業空間を組み合わせた建築を作る。計画段階から自然エネルギーを積極的に利用する。火山のような形状で排熱を効率的に行いたい。

前先生「自分がこの課題で一番想定していたような形だね。日射遮蔽をどうするかが問題だね。」
川島さん「目的が明確になってよかったです。日射遮蔽するようなものをただのルーバーとして設計するんじゃなくて、もっと建築化できないか?そうすれば面白くなる。」
富山くん「山形にしたのは地面と連続させたかったから。スケールは煙突効果を生み出すためのものとして決定していきたいが、まだ詰め切れていない。」

第二タームの終わりに、第一第二タームに出した人たち全員のパネルディスカッションを行いました。それぞれのパネルの前に集まって、先生方、TA、受講生が入り交じって議論を繰り広げます。


ここからが第三タームです。中間講評の案ほぼそのままの人もいれば、かなりディベロップさせてきた人もいました。


小原くん
自然エネルギーである太陽の分配を真面目に考えると、建築の形態は垂直ではありえなくなってくる。太陽の角度に合わせて色々なボリュームを作っていくと、斜めの柱が複雑に絡み合うような建築の形態になる。


米澤くん
様々な環境を持つ空間を建築の中に入れる。球の直径を2kmに設定している。普通とは違う温度分布が生まれる。


吉冨くん
バッファ空間としての非空調領域を道の設計を中心に増やしていく。街路空間は植物による日射遮蔽で成立するが、内部空間をどう解くかが問題。


王さん
砂を飲み込む建築を設計する。風の渦を利用してあらゆる方向から黄砂を飲み込む。水をかけることによって空気を浄化し、冷やしていく。砂に水をあげることで土になり、植物が生える。

第三タームの人たちは、中間講評で既に講評を受けていたので、すぐにパネルディスカッションに入りました。

最後に締めとして、今回がエスキスが最後の川島さんからコメントです。

「僕はアメリカに行ってしまうので、今日が最後だというモチベーションで来ました。地震のあとで環境のことを考えざるを得ないという状況に、自らがどう答えようとしているのかという点が、皆に共通してまだ見えない。表層的な芸にしか見えない案もある。このままだと後で行き詰ってしまうので、自分が何をやりたいかをもっと突き詰めて、悩んでいけばよいと思います。アメリカに行ってもブログとか見ながらフォローしていきます。メールベースでエスキスもしますので、もし川島に見て欲しい人がいれば頑張って下さい。

前先生

「今までの前スタジオだと問題解決集団みたいだったが、徹底的に形で押せそうな発見型の案を作りたければ押しきって欲しい。充実した講師陣の色んな意見を自分の中でどう持っていくかが難しいと思うが、それが前スタジオの一番の特徴だから頑張って欲しい。一番怖いのは手が動かなくなること。悩み、考えるのでも、手を動かしながら考えるのが良い。どうしても手が動かなかったら、本を読むことをして欲しい。先人の知恵がいっぱいつまっているのでそれを勉強してリテラシーをつけることもして欲しい。とにかく、何かをし続けるという作業が大事です。うちのスタジオはいつも、発想はいいけどとても最後の形に必然性を感じないというものが多い。練った形を最後には見つけて欲しい。」

先生方、受講生のみなさん、TAのみなさん今日もお疲れ様でした!TAの川島としては、皆先生たちの強力な意見に押されて案が縮こまっているような印象を受けました。前スタジオ後半戦は長い時間をかけたエスキスをできるので、深く話し合ってどんどんパワーアップしていければと思います。

この日の最後には、2日後が誕生日のTA中川さんの誕生日パーティーもしました!前スタジオの誕生日ラッシュどんどん続きます!笑


おめでとうございます!!